家庭用3Dプリンターと業務用・産業用3Dプリンター徹底比較
2023/08/31
3Dプリンターは、今では製造業に欠かせない機械となっています。一定の品質で用途に応じた機構を作成できるため、開発コスト低減、製造効率改善の一役を担っています。3Dプリンターの造形方法には、FDM方式、光造形方式、レーザー焼結方式、インクジェット方式などが存在しており、その用途によって造形物の完成度、精度、造形方法にいたるまで大きく変わります。
2000年以降、個人でも買える程度の安価な家庭用から製品使用もできるほど高価で高品質な業務用・産業用の3Dプリンターなど、幅広い種類が登場してきました。
3Dプリンターには家庭用と業務用・産業用がある
3Dプリンターとは、3DCGで描かれた設計図を基に、2次元の層をいくつも積み重ねることによって、3次元の構造物を印刷できる機械の総称です。3Dプリンターの歴史は古く1980年に日本で考案されました。造形方法のひとつであるFDM方式の特許期限が切れると、国内外の企業がこぞって3Dプリンターの開発に取り組み、さまざまな種類が登場し、2013年に全国的にその名が知られるようになりました。
数万円~数十万円の安価で購入可能な家庭用3Dプリンターだけでなく、数百万~数千万円が必要な業務用・産業用として使える3Dプリンターも登場しています。
家庭用プリンターの多くはFDM方式
家庭用プリンターの特徴として、ほとんど機種の造形方法がFDM方式であることです。
米国Stratasys社が開発したFDM方式は、2009年に特許期限が切れました。これを機に安価なプリンターを作成する業者が増えたと考えられます。
FDM方式は、「Fused Deposition Modeling」の略であり、日本語では熱溶解積層方式と表現します。工業製品で使われるようなABS樹脂(いわゆるプラスチック)を溶かし、ノズルを通して積層、立体を造形していく方式です。
素材となるABS樹脂は、工業製品にも使われる素材のため、強度が高い完成品を作成しやすく、カラーバリエーションが豊富にあるため、デザインの自由度も高いのが特徴です。
ただし、ABS樹脂は温度によって変形する特徴から管理が大変であり、成形時に歪みが生じてしまうことがあります。
業務用・産業用プリンターとは
射出成型や切削でしか作れなかった立体モデルをすぐに作ることができるため、試作における外注コストの低減や納期短縮を目的として導入する企業が増えてきました。
現場ごとに目的は異なるため、FDM方式、光造形方式、レーザー焼結方式、インクジェット方式などの方式や、素材に金属を使う3Dプリンターなどが登場しています。
価格帯は高く、導入にはコストがかかりますが、強度重視、精度重視、小ロット生産に対応できるものなど、幅広く用意されています。
家庭用3Dプリンターと業務用・産業用3Dプリンターを比較
家庭用と業務用・産業用で分けられているため、価格帯は大きく異なります。安価な家庭用3Dプリンターと高価な業務用・産業用3Dプリンターの違いについて5つの観点から比較します。
精度
個人で楽しむ分には家庭用プリンターで十分ですが、業務用・産業用のプリンターには、高い造形精度が求められています。
造形精度は、「寸法精度」と「表面精度」で分けられます。
家庭用3Dプリンターは樹脂の温度管理が難しいため、変形しやすく寸法精度が悪くなり、表面精度も荒い傾向があります。一方、業務用・産業用3Dプリンターは適切な温度管理機能をもつプリンターであれば、熱による変形がしにくく、均一な表面精度を保ち、精度の高い造形が可能です。
安定性
3Dプリンターの安定性は、印刷ミスがいかに少ないかです。2Dプリンターでも印刷トラブルは発生しますが、3Dプリンターでは材料、機械機構、サポート材、ソフトウェアなど多くの要素が絡み合うため、トラブルの可能性が高まります。
安価な家庭用3Dプリンターの場合、装置トラブルが多く、造形が途中で止まることや造形が崩れたまま稼働を続けることがあります。一方、業務用・産業用3Dプリンターはほとんどトラブルが発生せず、造形ミスはほぼ起こりません。
印刷時間
製品開発や製造における効率化は、印刷時間の長さに比例します。
3Dプリンターの造形は、サイズや求める精度に応じて数時間~数十時間ほどかかってしまいます。
例えば、3Dプリンターは、印刷ヘッドやノズルなどの可動部がありますが、印刷時間の短縮には、これらを高速で正確に動かす必要があります。
家庭用3Dプリンターの精度には限界がありますが、業務用・産業用3Dプリンターは、高精度と高速性の両立が重視されているため、日々改良がなされていることが多いです。
材料の違い
家庭用の3Dプリンターで使用できる材料は限られ、主に熱収縮が少なく歪みや反りが起こりにくいPLAが一般的です。しかし、PLAは造形後に熱に弱かったり変形しやすいデメリットがあり、他の材料は一般的に使用できないことが多いです。
一方、業務用・産業用3Dプリンターは多様な物性を持つ材料を使用できます。
ABS、カーボン入りナイロン、ポリカーボネイト、アクリルベースの硬質材料、透明材料、PPライク材料、軟質材料、フルカラー材料などの幅広いラインナップがあります。製品によって対応は異なりますが、材料の選択肢は豊富に用意されています。
印刷サイズ
家庭用3Dプリンターのほとんどがデスクトップタイプであり、個人が机の上で使用することを想定しています。一般的には筐体(印刷可能範囲)が小さく、そのため印刷サイズも小さくなります。
業務用・産業用3Dプリンターは、デスクトップタイプからオフィスに置ける中型機、工場で使用する大型機など、さまざまなサイズの製品が存在します。サイズが大きい場合でも印刷できるのがメリットです。
業務用・産業用3Dプリンターで何が出来る?使用用途を紹介
業務用・産業用プリンターは、家庭用に比べて多くの点で優れていることがわかります。実際に業務用・産業用3Dプリンターを導入した場合の使用用途を紹介します。
試作品の制作
試作品の製作: 量産に先立ち、実際の金型を作成する前に製品の形状や機能性を確認する試作に使用します。金型製作にかかるコストや時間の節約が可能。
また、設計段階で問題を洗い出し、再設計などの無駄を排除できます。事前に検証できるため、製品の組み立てや動作の検証もスムーズに行えます。
中空部品や複雑な形状の製作
3Dプリンターは、2次元のレイヤを積層して成型をするため、中空部品や複雑な形状を製作する際に適しており、加工が難しい部位でも容易に作成ができます。安価な場合、精度や強度面の懸念はありますが、試作・設計段階では十分といえます。
小ロットの特注品
少量の特注品などを作成する際、従来は金型の作成に相応の時間とコストがかかりました。試作の数も増やせないため、高い単価と高い技術力も必要でした。
しかし、3Dプリンターであれば型を作らずに直接製造することが可能。細かな個々の要望に対応でき、業務効率化やコスト低減につながります。
3Dプリンターの活用で、製造業における開発期間の短縮、コストの削減、作業効率と品質の向上など、さまざまな側面で改善が見込めます。
家庭用の3Dプリンターと業務用・産業用の3Dプリンターの違いは、成形品に求められる精度、大きさ、安定性などで決定づけられています。昨今、業務用・産業用の3Dプリンターの機能は増えつつあり、細かなニーズにも対応できるようになりました。
本格的な設計に移る前の試作、小ロットの特注品作成用途など、その扱いやすさから業務効率の改善が見込めます。
更に、3Dプリンターの安定性と機能向上により、実際の部品の一部として使われることも増えてきました。3Dプリンターの導入で得られるメリットとデメリットを吟味し、業務効率の改善とコスト削減のひとつとして検討してください。