進化を遂げる業務用3Dプリンター!精度を決める要素と高精細3Dプリンターの今
2023/08/31
3Dプリンターは、個人の趣味として普及していましたが、今や業務用としての需要も増加しています。商品設計の過程で必要なサンプル品作成を、従来通りの射出成型や切削加工で作るには、時間と費用がかかります。しかし、業務用の3Dプリンターを代用することで、機構の評価に充てる時間の確保や、コスト削減が可能です。
3Dプリンターを導入する際には、サンプル品に応じた精度が求められますが、寸法精度や積層ピッチなど、3Dプリンターの「精度」を表す用語はたくさんあります。自身の目的に合った「精度」の意味をしっかり理解しましょう。
業務用3Dプリンターの精度を決める要素とは
3Dプリンターで何かを造形する際には、選定した3Dプリンターが確かな精度を持っている必要があります。
そもそも3Dプリンターに求められる「精度」とは何でしょうか?
それは、造形物のデータに対してどの程度の正確さを持っているかです。
これらの要素は更に分解でき、寸法精度・表面精度・積層ピッチが業務用の3Dプリンターの精度を決定しています。
寸法精度と表面精度
寸法精度とは、造形物の寸法に対してどれだけデータ通りの造形ができたのかを測る精度です。寸法精度が低い場合、複数のパーツを組み合わせた際にズレが発生し、組付けが不可能になることもあります。およそ寸法精度が0.1mm以下であれば優秀といわれています。
細かな部品を複数組み合わせたサンプルを作る際に重視する精度です。
切削加工に比べると寸法の誤差は荒いですが、3Dプリンターは、気軽に製作できる点に重きをおいているため、バランスの問題と考えられます。
表面精度とは、造形物の表面がどの程度で滑らかであるかを示す指標です。
表面の仕上がりがざらざらしてしまい、見た目や手触りに悪影響を与えます。
趣味で楽しむ分には精度は不要ですが、展示物など見せる造形物を作る際には、企業のブランドイメージを損ねないためにも必須の精度です。
業務用3Dプリンターの精度を決める要素
業務用3Dプリンターの精度(寸法精度、表面精度)を決める4つの要素があります。
それぞれ紹介します。
積層ピッチ
積層ピッチとは、造形物を印刷していく際の1面の厚さのことをいいます。
3Dプリンターの印刷は、3Dの造形物を2次元にスライスしたスライスデータを重ねていくことで実現していますが、この厚みのことをさします。
積層ピッチが細かければ細かいほど、時間はかかりますが、より複数で細かい造形を可能にし、それと共に、積層面が見えづらくなるため、見た目も滑らかにできます。
3Dプリンターで高品質の造形物を作成する場合は、積層ピッチに注意しましょう。
X-Y軸の解像度
積層ピッチがZ軸の解像度と考えると、X-Y軸の解像度とは、スライスデータをどれだけ細かく描画できるかどうかです。
写真で考えると想像しやすいですが、解像度の高い画像は詳細まではっきりと見え、解像度の低い画像は角がぼやけてしまいます。
「DPI」や「mm」で定義されることが多いです。
造形中の反り
3Dプリンターで造形中、どの方式でも材料に熱が加わります。特に材料を温める熱溶解積層方式などの場合、材料内に発生した温度差で反りが発生してしまいます。
反りが発生しづらい材料を選択したり、温度管理が適切にされているのかが重要です。
サポート材の外しやすさ
3Dプリンターでの造形には、サポート材と呼ばれる、造形物を支える構造が必要です。
造形後は不要であるため除去しますが、この時にサポート材がバリとして残る場合があります。
例えば、ネジとネジ山のセットを造形してバリが出た場合、途中で溝が噛み合わなくなることがあります。寸法上、データ上では嚙み合う設計でも、バリの有無によって変わってしまうのです。
進化を遂げる業務用3Dプリンターの精度
3Dプリンターは、製造業の現場にも確実に浸透してきています。
0.01m低度の寸法精度でサンプルを作成できるため、業務効率の改善や問題点の発見に役立ちます。
反面、製造業における実用的なレベルにはまだ到達していないと考えられるのが現状です。
業務用3Dプリンターが直面する製造業での課題
造形スピード
3Dプリンターは、その製法上、造形に時間がかかります。一般的なプリンタでは、10cm程度のサイズを作る場合に約10時間が必要です。製造業において生産に時間がかかるのはデメリットになりえます。
精度
3Dプリンタの造形は、加熱しながら積層するものが多いため、高度な精度を維持することが難しいです。切削加工などの一般的な製造プロセスよりも精度が低い傾向にあります。
積層ピッチを細かくすれば精度は上がりますが、反面、造形にかかる時間が増えていきます。
強度
熱溶解積層方式やインクジェット方式等の材料を積層して造形する方式の場合、積層界面(層と層の境目)が脆く、特定の方向からの力に対する造形物の強度が低くなってしまいます。
一般的な量産品とのギャップ
射出成型等の製造方法では、金型の作成にお金や時間がかかるものの、一度完成してしまえば大量生産が可能です。反面、3Dプリンターは精度や強度、材料の選択などで限定されており、大量生産には向いていないといえるでしょう。
現在の一般的な3Dプリンターの精度
現状の加工方式で実現できる、一般的な3Dプリンタの精度をまとめました。
同じ方法でも、材料や設計サイズによって精度は異なります。精度向上のために追加の加工や設計上の工夫も重要です。
FDM方式
Z方向精度: 約±0.1mm~0.2mm
X,Y方向精度: 約±0.2mm
加熱による膨張や積層ピッチによる影響で精度が低く、積層界面の弱点により強度も上がりづらい。
光造形方式
Z方向精度: 約±0.3mm
X,Y方向精度: 約±0.1mm~0.2mm(手のひらサイズ)
紫外線で硬化するレジンを使用するため、熱膨張や収縮が少なくX,Y方向の精度が高い。
反面、印刷時に造形物を持ち上げる方式のため、Z方向が間延びしてしまいがちです。
粉末焼結方式
Z方向精度: 約±0.3mm(100mm未満)、約2%の誤差(100mm以上)
X,Y方向精度: 約±0.3mm(100mm未満)、約2%の誤差(100mm以上)
レーザー焼結で小さい場合は安定的な造形が可能だが、大きなサイズになると誤差や反りが発生してしまいます。
世界でも最高レベルの高精細3Dプリンターを実現したBMFの技術
通常の3Dプリンターの寸法精度はおおよそ0.1mm程度が限界であり、これ以上の精度は難しいと考えられてきました。しかし、BMF社は、ミクロンオーダーの精密造形が可能な高精細な3Dプリンターを初めて製品化し、販売しました。
高精度・高解像度を実現するBMFの超精密3Dプリンター
BMFの超精密3Dプリンター(microArch®)は、光造形方式を採用しています。
microArch®は、マイクロナノスケールの光硬化3D プリント技術として一般的に扱われる PμSL(Projection Micro Stereolithography)技術を使用しています。
光造形方式は、樹脂に紫外線を照射して硬化させる方式です。その中でもPμSL技術は、ダイナミックマスク小型ディスプレイを通して、紫外線を樹脂全体に一気に照射し、硬化させます。従来の方式に比べて、造形スピード・解像度・造形サイズが優れているのが特徴です。
業務用の需要が高まりつつある3Dプリンターには、製造業の求める精度を満たすこと必要でありますが、現在の技術においてコスト、製造時間、精度に課題があるため実現には至っていません。
一方で、3Dプリンターに期待されていた当初の役割は、そこそこの精度で迅速なサンプル作成が可能である点でありました。目的や用途に応じて適切に選択することが大事といえるでしょう。
しかし、3Dプリンターもミクロンオーダー造形が可能になった、高精細3Dプリンターの登場により、研究機関や医療分野で、射出成型等では実現できなかった精密部品の製造が可能になっています。今後もさらなる技術発展により、産業分野での活躍に期待が持てます。