【造形方式別に紹介】業務用3Dプリンターの種類と仕組みを解説
2023/12/25
製品開発から生産プロセスまで、業務用3Dプリンターはさまざまな産業分野で注目を集めています。業務用3Dプリンターは、その造形方式によって異なる特性を持ち、多くの用途に適しています。この記事では、業務用3Dプリンターの種類とそれぞれの仕組みを、造形方式別に詳しく解説していきます。
業務用3Dプリンターのメリット・デメリットを知ろう
業務用3Dプリンターを導入検討する前に、メリット・デメリットについて知っておきましょう。
◇開発プロセスにおけるメリット
3Dプリンターの導入には、製品開発プロセスに多くのメリットがあります。まず、3Dプリンターを使用することで、複雑な形状や機能を持つ部品やプロトタイプを迅速に製作できるため、新しいアイデアの生成が容易になります。
また、3Dモデルを作成し、物理的なプロトタイプを提供することで、開発チームとのコミュニケーションが円滑に行え、効率が向上します。さらに、製品の評価試験に使用するプロトタイプを素早く製作でき、品質向上に寄与します。
最後に、試作にかかるコストと時間を削減できるため、開発プロセス全体が効率的に進行します。これらの要因により、3Dプリンターの導入は製品開発において多くの利点をもたらします。
◇生産プロセスにおけるメリット
3Dプリンターの生産プロセスには、いくつかのメリットがあります。まず、小ロットやカスタム製品の生産に適しており、金型製作の必要がないため、製造コストを大幅に削減できます。これにより、特注の製品や少量生産品を効率的に製造できるのです。
さらに、必要な時に必要な数量の製品を製造できるため、在庫を最小限に抑えることが可能です。これにより、在庫管理コストを削減し、生産プロセス全体を効率化できます。3Dプリンターを導入することで、生産プロセスがより柔軟で効率的になり、コスト削減に貢献します。
◇業務用3Dプリンターのデメリット
業務用3Dプリンターにはいくつかのデメリットも存在します。まず、3Dプリンターで造形された部品は積層された層同士の結合に依存しており、従来の製造方法に比べて強度や耐久性に制約があります。特に高い強度が要求される部品や応力がかかる環境での使用には制限がある場合があります。また、必要に応じて追加の処理(例: 焼結)が必要な場合もあり、追加の工程やコストがかかることがあります。
さらに、業務用3Dプリンターは特定の造形方式ごとに使用できる材料が限られており、多くの場合、選択肢が制限されます。異なる材料を使用したい場合、それぞれの材料に適した3Dプリンターを導入する必要があり、設備投資が増加する可能性があります。材料の制約により、特定のプロジェクトや製品に適した3Dプリンターを選定することが必要です。
これらのデメリットにもかかわらず、業務用3Dプリンターは多くの利点を提供しますが、制約や選択肢についても事前に検討し、適切に活用することが重要です。
業務用3Dプリンターで押さえておきたい5つの造形方式
3Dプリンターの製造過程は一層ずつ積み重ねてくという点では、どの製造方式も変わりはありません。しかし、積み重ね方にはそれぞれの方式で違いがあります。造形方式ごと特徴や用途について以下で解説します。
◇熱溶解積層方式
熱溶解積層方式(Fused Deposition Modeling、FDM)は、3Dプリンターの中でも最も一般的で広く使用されている技術の一つです。この方式は、糸状の材料であるフィラメントを使用し、それを加熱して溶かしながら、薄い層(レイヤー)ごとに積み重ねて立体物を造形します。
FDMプリンターは、プラスチック系のフィラメントだけでなく、ウッドフィラメント、メタルフィラメント、柔軟なフィラメントなど、さまざまな材料を使用できます。さらに、比較的低価格で入手でき、個人や小規模なビジネスにも利用が広がっています。
この方式の特長は、複雑な形状やデザインを作成できること、多様な材料への対応、手頃な価格帯での入手性です。そのため、プロトタイピング、小ロット生産、教育、趣味のクリエイション、プラスチック製品の製造など、幅広い用途に利用されています。また、多くのフィラメント材料が市場に出ており、特定の要件に合わせて選択できるため、柔軟性が高いのも特徴です。
◇光造形方式
光造形方式(SLA)は、3Dプリンターの一種で、液体樹脂を使用して物体を造形する方式です。この方式の特長は以下の通りです。
SLAは非常に高い精度で物体を造形できます。レーザー光を使用して液体樹脂を硬化させ、非常に細かい詳細や複雑な形状を表現できます。これは、精密なプロトタイプや高品質の製品の製造に適しています。
SLAによって作成された物体は、滑らかで均一な表面仕上げが可能です。このため、追加の仕上げ作業がほとんど不要で、製品が美しい仕上がりとなります。
SLAは異なるタイプの樹脂材料に対応しています。これにより、特定のプロジェクトや用途に最適な材料を選択できます。耐熱性、耐薬品性、透明性など、さまざまな要件に応じた材料が利用可能です。
SLAは比較的高速な造形が可能です。液体樹脂をレーザーで硬化させるプロセスは効率的で、迅速なプロトタイプ作成や小ロット生産に適しています。
3Dモデルをデジタルファイルとして設計し、SLAプリンターに供給することで、カスタマイズされた製品の製造が容易に実現できます。これは、医療機器、ジュエリー、歯科治療などの分野で広く利用されています。
SLAは、高精度な造形、滑らかな表面仕上げ、多材料対応、高速造形、カスタマイズ性といった特長を持つ3Dプリンティング方式であり、幅広い用途に適しています。
◇インクジェット方式
インクジェット方式は、3Dプリンターが微小な液滴を積層して物体を造形する方式です。この方式は、液体樹脂または粉末とバインダーを微小な液滴として積み重ねて物体を形成します。この液滴は非常に精密な位置に配置され、層ごとに積み上げられます。
インクジェット方式は複数の材料を組み合わせてプリントでき、色付けや材料の組み合わせによって多様なプリントオプションが可能です。高い解像度で色をプリントできるため、特にカラフルで精密なモデルやプロトタイプの製作に適しています。
通常、インクジェット方式では粉末とバインダーを組み合わせて使用します。バインダーは粉末を接着剤のように固定し、バインダーの種類と配合を調整することで物体の特性を調整できます。
高精度な造形と滑らかな表面仕上げが可能なため、詳細な評価や精密なモデルの製作に向いています。建築模型、プロダクトデザイン、アート、カスタムジュエリーなど、幅広い分野で利用されています。
インクジェット方式の3Dプリンターは、精密な造形や多彩なカラープリントを必要とする多くのアプリケーションに適しており、幅広い材料の利用が可能です。
◇粉末燃結方式
粉末燃結方式は、3Dプリンターの一種で、レーザー光を用いて粉末材料を層ごとに焼結させて物体を造形する技術です。この方式にはいくつか特徴があります。
まず、粉末材料に対応しています。これはプラスチック、金属、セラミックスなど、多種多様な粉末材料を使用できることを意味します。そのため、さまざまな用途に応じて適切な材料を選択できます。
また、高い精度での造形が可能です。微細なディテールや複雑な形状を正確に再現でき、プロトタイプや工業用部品の製造に適しています。
粉末燃結方式は、部品が自立して造形できるため、支持構造がほとんど不要です。これにより、後処理が減少し、設計の自由度が向上します。
さらに、この方式は高温環境で行われるため、高温に耐える材料の造形に向いています。金属部品の製造など、高温耐性が必要なアプリケーションに適しています。
◇粉末固着方式
粉末固着方式は、3Dプリンターの一つで、粉末状の材料とバインダーを用いて物体を造形する方式です。この方式は、多種多様な粉末状の材料を使用できるため、幅広いアプリケーションに対応可能です。砂、金属粉、セラミックス粉など、材料のバリエーションが豊富です。
物体の形状は、粉末材料とバインダーが混合され、層ごとに散布されることで形成されます。バインダーの種類や配合を調整することで、造形物の特性を制御できます。この方式はカラープリントにも対応し、バインダーに色素を添加することで多彩な色の物体を製造できます。
物体は層ごとに積み重ねられるため、非常に複雑な形状や内部構造を持つ物体でも製作が可能です。また、支持構造(サポート構造)がほとんど不要なので、プリント物体からサポートを取り外す手間が省け、後処理が簡素化されます。
高速な製造も特徴の一つで、大規模な物体の製造やプロトタイプの迅速な評価に向いています。粉末固着方式の3Dプリンターは、多彩な材料と高い制御性、製造速度の面で幅広い利点を持つ技術と言えます。
業務用3Dプリンターのメリット・デメリットについて要約すると、3Dプリンターの導入により、製品開発プロセスで複雑な形状やプロトタイプを迅速に製作でき、効率的なコミュニケーションや評価試験に貢献します。
また、生産プロセスでは小ロットやカスタム製品の効率的な製造、在庫の最小化が可能で、コスト削減に寄与します。しかし、3Dプリンターで造形された部品の強度や耐久性には制約があり、特定の材料に依存します。さらに、材料の選択が制限され、追加の処理が必要な場合もあります。
造形方式による違いは、熱溶解積層方式(FDM)は、広く使用され、多様な材料に対応し、柔軟性が高い方式です。光造形方式(SLA)は高精度で滑らかな表面仕上げが可能で、多材料対応とカスタマイズ性が特長です。
また、インクジェット方式は精密な造形と多彩なカラープリントに適しており、幅広い材料の利用が可能です。粉末燃結方式は多種多様な粉末材料に対応し、高精度な造形が可能で、支持構造がほとんど不要です。
最後に粉末固着方式は粉末材料とバインダーを使用し、多彩なカラープリントと高速な製造が可能で、複雑な形状の製造に向いています。これらの方式は、それぞれ異なる特長を持ち、用途に応じて選択できます。業務用3Dプリンターを導入する際には、目的や要件に合わせて最適な方式を選定することが重要です。