知っておきたい廃液処理方法とは?光造形3Dプリンターの後処理を解説
2023/12/26
光造形3Dプリンターの後処理において、レジンの洗浄は重要な工程です。洗浄時には換気の良い場所で行い、アルコールなどの洗浄液に直接触れないように手袋を着用することが不可欠です。また、アルコールは可燃性であるため、地域の廃棄物処理規則に従って廃棄物処理を行う必要があります。
3Dプリントの後処理とは?光造形3Dプリンターの例を紹介
光造形3Dプリンターは高精度で複雑な形状の再現性を備え、製品試作、小ロット量産、教育・研究、金型製作、模型制作、部品製作など多岐にわたる用途で活躍します。その特性により、迅速で効率的な製品開発や創造的なプロジェクトを支援します。光造形3Dプリンターを使い終わったらきちんと後処理をしなければなりません。正しい後処理の方法を覚えておきましょう。
◇プラットフォームを剝がす
3Dプリンターの後処理にはさまざまな工程がありますが、最初にする工程はプラットフォームから造形物を剥がすことです。光造形3Dプリンターはさまざまなものが制作できる一方で、造形物はラフトに真空状態で密着しているため、光造形は剥がれにくさが課題となっています。
剥がすにはコツが必要で簡単には剥がせません。無理に剥がそうとするとプラットフォームに傷がついて、造形物が破損してしまいます。そのため、プラットフォームから剥がす際はハンマーとスクレイパーを使用するのがポイントです。
スクレイパーをラフトの隙間に当ててハンマーでスクレイパーを軽く叩き、少しずつ隙間に入れていくことで空気が入り、真空状態が解消されるため剥がしやすくなります。また、新しめのプラットフォームは特に剥がしにくいため、粗めのサンドペーパーで削ることで凹凸が出て空気が入りやすくなるため、剥がれない場合は試してみるとよいでしょう。
造形モデルのサイズが大きい場合も剥がれにくくなってしまうため、造形モデルを分割するなど工夫すると取りやすくなります。プリント方向を調整すると剥がれやすくなります。接地面が大きくなればなるほど吸着力が強くなるため、可能であればサイズを小さくしたり、空気が入りやすい形状にしたりするのも剥がしやすくするポイントです。
正しい剥がし方で処理することで、プラットフォームの表面が傷付かず長期間使用できるため、しっかり剥がし方をマスターしておきましょう。
◇造形モデルのレジンを洗浄する
プラットフォームから造形物を剥がした後は、造形モデルのレジンを洗浄する必要があります。
レジンはエタコールやIPAなどのアルコール類に一定時間浸けておくことで洗浄可能です。水洗いレジンというものが近年では登場していますが、基本一般的なレジンは水では洗い落とせません。
造形モデルのレジン洗浄の注意点・用意するものを紹介
レジン洗浄を行う際は、いくつか注意点があります。洗浄で使用するものは、アルコール類のため間違った使い方をすると危険です。以下で解説する注意点や準備を把握することが大切です。
◇洗浄する際の注意点
レジンを洗浄する際は、押さえておくべきポイントがいくつかあります。まず、洗浄する際は換気できる環境下で行い、アルコールなどを直接手で触らず必ず手袋をして処理することが重要です。
アルコールに浸ける時間を守らなければ造形物が溶けてしまう可能性もあるため、洗浄時間はしっかり守るようにしましょう。また、洗浄後には必要に応じて二次硬化や研磨塗装、コーティングが必要な場合があります。
◇洗浄で用意するものとは
Formlabs社のプリント後の後処理作業用キットを例に挙げて、レジンを洗浄する際に必要なものについて解説します
リンスバスケット
リンスバスケットは、パーツの洗浄時に使用します。バケットから次のバケットにパーツを移動しながら、未硬化レジンを効果的に洗い流します。バスケットはリンスバケットの端に引っ掛けられ、洗浄したパーツを乾燥させるのにも使えます。
リンスボトル
リンスボトルは未使用のIPAを入れるためのもので、すすぎ洗いや内部チャネルの洗浄に使用します。清潔なボトルを使用しましょう。
フィニッシングトレイ
フィニッシングトレイは、取り外した造形物やツールを置くスペースを提供します。作業スペースを整理し、アイテムを整然と配置できます。
ピンセット・スクレーパー
ピンセットは、プリントしたパーツからサポートを慎重に取り除くのに使用します。スクレーパーはビルドプラットフォームからパーツを取り外す際に使用します。金属製の鋭利なツールなので、注意が必要です。
リムーバルツール
リムーバルツールは、造形物を取り外すためのツールで、ラフトの下に圧力をかけてパーツのベース部分を取り外します。 PreFormで生成されたラフトの下に挿入し、パーツを慎重に取り外しましょう。
タンクツール
タンクツールは、レジンタンクの点検、レジンの混合、クリーニングに使用します。2つに分かれる構造で、それぞれ異なる作業に使えます。
PEC PAD
PEC PADは、光学窓やレジンタンクの裏面を清掃するためのクリーニングクロスです。メンテナンス時に使用します。消耗品なので、必要に応じて交換しましょう。
使い捨てのニトリル手袋
使い捨てのニトリル手袋は、プリントの取り外しや仕上げ作業時に着用します。レジンや洗浄液に触れないように保護します。手袋は消耗品なので、必要に応じて交換しましょう。
洗浄液の処分方法とは?
洗浄液は、レジンの取り除きと清掃に使用しますが、その後の処分が重要です。ここでは、洗浄液の処分方法を解説します。
まず、残ったレジンをレジンボトルに回収します。この際、造形物本体からはがれた硬化したレジン片や、漏れ出たUV光によって硬化したレジン片を見落とさないように注意しましょう。
レジンを回収した後、レジンVatを1次洗浄槽に入れて洗浄します。洗浄の際には、FEPフィルムが傷つかないように刷毛や筆を使ってやさしく洗い流します。次に、ハンドソープを使用してレジンVatのFEPフィルム面をやさしく洗浄し、流水で洗い流します。その後、レジンVatをよく水気を切ります。レジン残渣や洗浄液が残らないように注意しましょう。
FEPフィルム面をアルコールで洗浄します。アルコールはレジンを溶解させる能力を持ち、FEPフィルムにはほとんど影響を与えません。特に、無水エタノールを使用することが安全です。
レジンVatにアルコールを噴霧し、全体に行き渡るように揺り動かします。アルコールを隙間に入り込ませることが重要です。最後に、レジンVatを立てて、内部の水分を吸い取ります。アルコールは揮発して溶け出したレジンが混ざった水が残るため、キムタオルやキッチンペーパーを使用して吸い取ります。この際、フィルム面をこすらず、吸い取るのに注意しましょう。
アルコールは可燃性であるため、安全に処理するためには地域の廃棄物処理規則に従う必要があります。通常は指定の容器に封じて廃棄物処理施設に持ち込む必要があります。地域によって異なる規制があるため、地元の法律や規制を確認しましょう。
このように、レジンVatの洗浄液は、レジンを取り除いてから処分する必要があります。アルコールの処分については、地域の法律を遵守することが大切です。廃液処理をする際は、排水口に流したりすることは絶対にしてはいけません。
レジンの洗浄で使用しているものは、有機溶剤に分類されるもののため正しく取り扱わなければいけない危険性の高いものです。取り扱いには十分に注意しましょう。
◇特別管理産業廃棄物扱いになる
3Dプリンターの洗浄作業が終わった後は、洗浄液(廃液)を廃棄しなければなりません。通常の洗浄液は有機溶剤ですが、洗浄後はレジンが混ざっているため産業廃棄物として処理する必要があります。
また産業廃棄物は、通常の産業廃棄物と特別管理産業廃棄物の2つに分類され、さらに20種類に分かれているのが特徴です。そもそも特別管理産業廃棄物とは、危険性が高く厳しく管理しなければならないもののことをいいます。
3Dプリンターの洗浄で使用されている有機溶剤は、特別管理産業廃棄物の引火性廃油に該当しています。そのため廃液処理をする場合は、自治体または産業廃棄物処理を行っている業者への委託が必要です。
特別管理産業廃棄物を委託して処理する場合は、特別管理産業廃棄物収取運搬業者、特別管理産業廃棄物処分業者の都道府県からの許可が下りている業者へ委託します。まれに許可申請していない業者も存在するため、注意が必要です。
委託する際は必ず書面での契約を交わし、廃棄物の種類・量・性状・荷姿・取扱注意事項などを文書で業者へ通知しておく必要があります。
◇廃棄コストがかかる
有機溶剤のような引火性廃油の処理にかかるコストは、通常の産業廃棄物と比べると2~5倍ほどと高額です。IPAの場合は1回ごとに45,000円〜70,000円ほどかかるとされています。
しかし近年では、有機溶剤によっては産業廃棄物の処理業者への委託が不要なサービス付きのものがあるため、コストを抑えたい方はそちらを利用するのもおすすめです。この場合は、専用の回収セットが付属しており専用の回収フォームから申し込むだけで無料回収してもらえます。
光造形3Dプリンターの後処理は、プラットフォームから造形物を剥がすことから始まります。剥がし方は注意が必要で、ハンマーとスクレイパーを使い、慎重に隙間に空気を入れて剥がします。大きな造形モデルは分割したり、プリント方向を調整したりして剥がしやすくすることが重要です。
次に、造形モデルのレジンを洗浄します。一般的なレジンはアルコール系の液体で洗浄可能です。洗浄の際には適切な手袋を着用し、洗浄時間を守り、必要に応じて二次硬化や研磨塗装、コーティングを行います。
洗浄液の処理についても重要で、有機溶剤を含む洗浄液は特別管理産業廃棄物として処理する必要があります。特別管理産業廃棄物の処理には高額なコストがかかりますが、一部のサービスでは無料回収のオプションも提供されています。 光造形3Dプリンターの後処理には細かい作業やコスト面での注意が必要ですが、適切な処理を行うことで環境と安全を守りながら、高品質な造形物を得ることができます。