業務用3Dプリンターは建築業界の救世主となる?課題と可能性
2024/04/29
業務用3Dプリンターは、建築業界における労働力不足や工期の短縮などの課題に対する解決策として期待されています。しかし、素材や耐震基準などの課題も存在し、導入には課題が潜在しています。それでも、3Dプリンターの活用により、労働力不足の解消や工期の短縮、材料の無駄削減などの可能性が広がっています。建築業界の救世主としての役割を果たすためには、これらの課題を克服し、3Dプリンターの技術革新を進める必要があります。
多くの課題を抱える建築業界
建築業界では、人出不足や職人の高齢化、長時間労働などの課題が顕在化しています。これらの課題により、建築プロジェクトの進行が遅れたり、品質の低下や安全性の懸念が生じることがあります。そのため、効率的で労働力を補完する技術として、業務用3Dプリンターが注目されています。
業務用3Dプリンターは、建築部品や構造物を直接プリントすることができ、従来の手作業に比べて効率的に製造できます。また、3Dプリント技術を活用することで、設計変更に柔軟に対応できるため、プロジェクトの進行や修正作業の効率化が図れます。
さらに、3Dプリンターは作業者の負担を軽減し、危険な作業環境を回避することができるため、安全性や作業環境の改善にも寄与します。このように、業務用3Dプリンターは建築業界における労働力不足や労働環境の改善に貢献すると期待されています。
建築業界を取り巻く課題と3Dプリンター導入に対する課題
画像出典先:フォトAC
建築業界では、高齢化や若手の人材不足が深刻な課題となっています。これにより、建設プロジェクトの遅延や品質の低下などの影響が生じています。また、人手不足対策として期待される業務用3Dプリンターの導入についても、実績不足や認定の側面で課題があります。
◇建築業界を取り巻く課題
課題の主な要因として、高齢化による技術の後継者不足や、若者の建築業界への興味の低下が挙げられます。この課題を解決するためには、若手の育成や働きやすい環境の整備、技術革新などが必要とされています。
また、人手不足の背景には、労働条件や安全面の問題も含まれています。建設現場の労働環境が過酷であることや、給与面の課題が若者の建設業への意欲を低下させている可能性もあります。
さらに、建設業界が抱える人手不足は、建設需要の増加によって一層深刻化しています。都市部では、インフラ整備や建築需要が高まっているため、人手不足の影響が顕著に現れています。
◇取り分け深刻な土木業界
土木業界では技術者や施工スタッフの確保が特に難しい状況です。
この人手不足がもたらす課題として、工期の遅延や品質の低下、安全管理の不備などが挙げられています。また、人手不足が深刻化すると、業界全体の競争力が低下し、結果として国や地方自治体のインフラ整備計画が遅れる可能性も指摘されています。
さらに、人手不足の解消には様々な取り組みが必要とされています。例えば、若者の土木業界への興味喚起や技術者の育成、働き方改革や労働環境の改善などが挙げられています。特に、働き方改革や労働環境の改善は、若手や女性など多様な人材の確保につながる可能性があります。
土木業界における人手不足とその課題は深刻であり、これらの課題を解決するためには業界全体での取り組みが必要とされています。
◇3Dプリンターを導入する上での課題
3Dプリンターは、建築業界で人手不足の対策として期待されていますが、導入においては課題もあります。以下では、建築業界における3Dプリンター導入の課題について解説します。
素材に対する課題
コンクリートは建築業界において主要な素材ですが、その重量や流動性の制約から、工場から建設現場への運搬に課題が生じます。特に、大規模な建築物や建設現場へのアクセスが制限された場所では、コンクリートの運搬が困難であり、建設プロセス全体に影響を及ぼす可能性があります。
3Dプリンターによる建築物の製造には、従来の建築材料と比較して異なる特性や要件が必要です。コンクリートは流動性が低く、3Dプリンターの使用に適していない場合があります。そのため、3Dプリンターに最適な素材の開発や、既存の素材の改良が必要です。
耐震基準
建築業界における課題の一つは、耐震基準に関連しています。建築材料の実用化において、構造大臣認定(20条)を取得する必要があります。しかし、実際に建築材料を活用する際には、スケジュールの遅れや安全性に関する不安が生じることがあります。
これは、実績が少ないために安全性を保証するデータが不足しており、国土交通省からの許可が得られにくい状況があるからです。国土交通省の許可が得られない場合、建築プロジェクトの実施が困難になることもあります。
建築業界で業務用3Dプリンター活用を普及させるための取組み
建築プロセスの革新や生産性の向上を図るため、業界全体で積極的な取り組みが展開されています。そのためには、さまざまなイニシアティブや取り組みが必要です。
◇課題解決に期待される業務用3Dプリンター
建築現場で業務用3Dプリンターを活用する為には、先ほど紹介したような課題もありますが、様々なメリットもあることから、注目されています。以下で、業務用3Dプリンターの導入によって期待される効果について解説します。
人出不足解消
業務用3Dプリンターを活用することで、従来の建築作業に必要な人手を大幅に削減できます。3Dプリンターは自動化されたプロセスによって建築部品や構造物を製造するため、人手不足の問題を解消し、労働力の補完が可能です。
工期の短縮
3Dプリンターを使用することで、建築プロジェクトの工期を短縮することができます。従来の手作業に比べて高速かつ効率的に部品や構造物を製造できるため、プロジェクトの進行が加速されます。これにより、建築プロジェクトの完了までの時間を短縮し、より迅速な建物の完成が可能となります。
材料の無駄を削減
業務用3Dプリンターを使用することで、建築材料の無駄を削減することができます。従来の加工方法では、必要な材料を切り出す際に多くの余剰が発生しますが、3Dプリンターは必要な分だけの材料を使用するため、無駄を最小限に抑えることができます。これにより、資源の有効活用やコスト削減が図れます。
◇建築用に適した業務用3Dプリンターの素材の開発
ラクツムは、建築業界での革新的な素材として注目されています。これは、3Dプリンティング技術を活用して建築物の部品や構造物を造形するための特殊なコンクリート素材です。
従来のプレキャスト工法では、工場で製造されたコンクリート部材を現場で組み立てるため、輸送や置き場、組立に多くのリソースが必要でしたが、ラクツムの登場によりこれらの課題が解消される可能性があります。
ラクツムの特長として、以下の3つのメリットが挙げられます。まず、構造物を型枠レスで作れることがあります。通常のコンクリート建築では型枠が必要ですが、ラクツムは3Dプリンティングによって型枠なしでコンクリートを造形できるため、省人化・自動化が可能です。
また、造形する形状の自由度が高く、従来の施工法では難しかった自由曲面や複雑なデザインを実現できます。さらに、積層材料を変更したり、中空構造を作ることで複合的な性能や機能性を付加することができます。
ラクツムは、セメントや砂に加えて合成繊維や減水剤、混和材で構成されており、これらの材料によって高い粘性と耐久性が実現されています。3Dプリンティング装置を用いて、ラクツムは一定の速度で滑らかに押し出され、型枠のように中に空洞を持つ積層体を崩さずに積み上げられます。
さらに、積層後の表面は稠密に一体化しており、吸水性が低く、水や空気の侵入を防ぐことができます。強度試験の結果、ラクツムは高い圧縮強度と耐久性を持ち、地震などの自然災害にも強い素材として期待されています。
業務用3Dプリンターは建築業界の救世主になる?
業務用3Dプリンターの導入が、建築業界における新たな救世主となる可能性があります。建築プロセスに革新をもたらし、従来の制約や課題を解決する一方で、生産性や効率性の向上をもたらすことが期待されています。
◇公共工事での活用事例
高知県において、公共工事の構造物作製に業務用3Dプリンターが活用された事例があります。高知県は地震や豪雨などの自然災害が頻発する地域であり、道路の強靭化が急がれています。このため、業務用3Dプリンターを活用して、構造物の製造や補修を効率化し、耐震性や耐久性の向上を図る取り組みが行われています。
具体的な事例として、高知県では道路橋の構造物や補修部品などが業務用3Dプリンターで作製されています。これにより、従来の製造方法よりも迅速かつ柔軟に必要な部品を製造できるだけでなく、製造プロセスの効率化や材料の無駄削減にも貢献しています。
また、山間部などの地形が複雑な地域においても、業務用3Dプリンターの可能性が広がっています。地形や環境に合わせたカスタマイズされた部品や構造物を効率的に製造することができるため、地域特性に適した公共工事の実施が可能になります。これにより、建設現場の作業効率や安全性の向上だけでなく、地域の防災やインフラ整備の推進にも寄与します。
◇業務用3Dプリンター住宅の誕生
セレンディクス社が発表した、日本初の2人暮らし向け3Dプリンター住宅「serendix50」は、愛知県小牧市で建設されました。この住宅は、平屋建てで1LDKの間取りを持ち、延べ面積は50m2、最高高さは4mです。構造は鉄骨造と鉄筋コンクリート造であり、施工時間は目標の48時間よりも3時間30分短い44時間30分で完成しました。
この住宅は、快適性と安全性を確保するためにデジタルデータに基づき、3Dプリンターで住宅の躯体を出力し、屋根はCNCカッターで造形されています。3DプリンターとCNCカッターという2つのデジタルファブリケーション技術が融合し、48時間以内に建設を完了することが可能です。
この業務用3Dプリンターを用いた建築プロセスは、機械化され、自動化されたシステムによって建物の構造や部品を直接プリントできます。そのため、建築現場での人手の必要性が低減し、建設工程全体の効率が向上します。また、従来の建築方法では難しかった複雑なデザインや曲線などの形状も容易に実現できます。これにより、建物のデザインにおける自由度が高まり、個性的で斬新な住宅が実現できます。
建築業界は人手不足や職人の高齢化、長時間労働などの課題に直面しています。このような課題を解決するために、業務用3Dプリンターが注目されています。3Dプリンターを活用することで、人手不足の解消や工期の短縮、材料の無駄削減などが期待されています。
しかし、3Dプリンター導入には素材や耐震基準の課題があります。そこで、建築業界では新たな素材の開発や認証の取得、技術者の育成などの取り組みが進められています。また、業務用3Dプリンターの活用事例として、高知県での公共工事やセレンディクス社の住宅事例が挙げられます。
これらの取り組みにより、建築業界における労働力不足や技術革新に対する取り組みが進展し、3Dプリンターが救世主としての役割を果たす可能性が高まっています。