自動車業界で業務用3Dプリンターの導入が進む理由とは?
2024/05/30
自動車業界で業務用3Dプリンターの導入が進む理由は、製造プロセスの効率化と品質向上にあります。3Dプリンターは部品の複雑な形状や軽量化を可能にし、開発期間を短縮することができます。また、中小企業にとっても導入が容易でないものの、県が支援している例もあり、その効果が大きいため、業界全体の競争力向上に繋がると期待されています。
自動車業界で3Dプリンターが注目されている理由とは?
自動車業界では、最新の技術や製造プロセスの革新が常に求められています。その中で、近年注目されているのが3Dプリンター技術です。従来の製造方法に比べて、3Dプリンターは部品の製造における柔軟性や効率性を高め、生産プロセスの革新をもたらしています。
◇開発期間が短縮できる
一般的に自動車の製造部品は、さまざまな加工工程を経なければ完成しませんが、3Dプリンターを使用すれば一体化構造での造形が可能となるため、開発から製造までの期間を短縮できます。
また、デジタル空間で造形物を再現できるため、シミュレーションベースでトライ&エラーを繰り返せる点も3Dプリンターを使用することで開発期間を短縮できる理由のひとつです。
◇部品の軽量化が可能
自動車の製造では、軽量化が重要課題のひとつです。3Dプリンターを使用すれば「トポロジ最適化」や「ジェネレーティブデザイン」などを活用でき、設計の最適化が可能です。これにより軽量且つ強度を向上した先進的設計を導き出すことができるため、約40%の軽量化を実現することもできます。
◇品質と生産サイクルが向上する
3Dプリンターでは、内部の複雑な部品を造形できるため高品質なものを生産できますし、データさえあればいつでも再生産可能です。また、補修部品や金型部品を長期保管する必要もありません。
このような事から、3Dプリンターを使用すれば品質と生産サイクルも向上が期待できます。以上のような理由から今、自動車業界でも業務用3Dプリンターが注目されています。
自動車業界で3Dプリンターを導入する課題とは?
画像出典先:フォトAC
自動車業界における3Dプリンター導入には、いくつかの課題が存在します。これらの課題を克服することが、効果的な導入と活用に不可欠です。
◇設計面での課題
3Dプリンターの大きな特徴のひとつが付加製造のための設計を行うこと。付加製造とは、材料を積層しながら造形する新しい加工法であり、従来の大量生産技術とは大きく異なります。3Dプリンターを導入するということは、3Dプリンターでの製造を前提とした設計が必要になるということです。
大量生産が主流の自動車業界が今まで行ってきた従来の加工方法での設計は意味をなさなくなります。つまり3Dプリンターを導入することで、その企業は設計面において大きく舵を切る決断を迫られる事となります。
◇中小企業が手を出しにくい価格
自動車等の製造で使用される金属3Dプリンターは、安価なものだと10万円台で購入可能ですが、それらはあくまでも個人用です。企業が業務用として使用する金属3Dプリンターともなると、安価なものでも数千万円はします。
ハイエンドモデルになれば1億円以上は当たり前という代物なので、中小企業が簡単に手を出せる価格ではありません。この点もまた、自動車業界で3Dプリンターを導入するための大きな課題のひとつです。
静岡県が業務用3Dプリンターの導入を後押し
上記では企業が3Dプリンターを導入する際の課題についてご紹介しましたが、静岡県では中小企業に対して業務用3Dプリンターの導入を後押ししています。
◇ものづくり県の危機を救うために3Dプリンターの導入を後押し
静岡県は「ものづくり県」として知られ、製造品出荷額で全国3位の位置を誇ります。その中でも自動車部品などの輸送機械関連は、県内経済の柱となっています。しかしながら、自動車業界は今、脱カーボンやEV化といった大きな変革期を迎えています。
この変化は、部品構成の大きな変化をもたらし、新規参入も盛んです。その結果、静岡県内の中小部品メーカーは危機的状況にあります。この危機を打開するため、静岡県は金属3Dプリンターの導入を後押ししています。
3Dプリンターは、部品の試作品を短期間で作成できるため、製造業界に革新をもたらすと期待されています。しかし、中小企業が単独で導入するのは困難なため、県が主導して導入を進めています。これにより、中小企業が新しい技術を手軽に活用できる環境が整い、県内のものづくり産業の競争力強化につながることが期待されています。
◇自動車メーカーへの提案力向上が狙い
自動車業界において、革新的な技術を導入し競争力を高めるためには、トライアンドエラーを通じてデータを収集し、最適なオペレーションを見つけることが欠かせません。自社のデータに頼るだけでは、世界的な競争に勝つことは難しいでしょう。
そのため、同業他社がデータやノウハウを共有し、協力して最適解を見つける仕組みが重要です。静岡県が金属3Dプリンターの導入を後押ししているのは、このような協力と情報共有を促進し、自動車メーカーへの提案力を向上させることに狙いがあります。
中小企業が新技術を導入し、その成果やデータを共有することで、より高度な製品やサービスを提供し、自動車メーカーに対してより有益な提案ができるようになるのです。
3Dプリンターがもたらす自動車業界への革命
ここまでは自動車業界が業務用3Dプリンターを導入するメリットや導入に際しての課題などについてご紹介しました。では、業務用3Dプリンターは自動車業界にどのような変化や効果をもたらすのでしょうか。
◇カーボンニュートラルに向けた車づくりに貢献
自動車業界は現在、脱カーボン、EV化が世界的な潮流となっています。ただ、EV車は走行距離など解決が必要な課題もまだまだ多く、走行距離を伸ばす方法のひとつとして挙げられているのが車体の軽量化です。
車体を軽量化するためには、パーツの軽量化が必要不可欠です。業務用3Dプリンターを使えば、これまで金属で対応していた部品を3Dプリンターで製造できる素材に置き換えて軽量化することも可能となり、カーボンニュートラルに向けた車づくりに貢献できると考えられています。
◇従来の製造時間よりも短縮できる
従来の工法で中身の詰まった円柱やブロックなどを軽量化する場合、ドリルで穴を開ける工程が必要です。しかし3Dプリンターを使用すれば最初から穴の開いた構造のものを製造できます。
また、3Dプリンターの使用で作業工程が減ることにより、製造時間の短縮につながるだけでなく、部品製造に使用する素材の量も削減できるのです。3Dプリンターの活用は、車体の軽量化はもちろん、製造時間の短縮から素材の量の削減まで可能にします。
自動車業界では、最新の技術と製造プロセスの革新が求められており、その中で3Dプリンター技術が注目されています。3Dプリンターは開発期間の短縮、部品の軽量化、品質と生産サイクルの向上を可能にし、自動車メーカーに革新をもたらしています。
しかし、3Dプリンターの導入には設計面での課題や中小企業にとっての高価な導入コストなどの課題があります。静岡県では、中小企業の導入を後押しし、自動車メーカーへの提案力向上を図っています。 このような取り組みは、自動車業界における革命を促進し、車体の軽量化や製造時間の短縮など、新たな技術革新をもたらすことが期待されています。