ウッドショック対策として期待される木材フィラメントの特徴と活用事例
2024/05/31
木材フィラメントは、天然の木材粉末とプラスチックを組み合わせて作られた3Dプリンター用のフィラメントであり、環境にやさしい素材として高く評価されています。木材フィラメントを使えば、木の質感を再現できるため、アートや建築モデルの造形に適しています。また、端材や切れ端といった木材の副産物を有効活用できるため、資源の無駄遣いの軽減にも期待されています。
環境問題の原因とは?
環境問題は、地球規模での様々な変化や影響が生じ、人類や生態系に深刻な影響を与えています。新型コロナウイルスの感染拡大により、各国でロックダウンが行われ、経済活動が停滞しました。
これに伴い、ウッドショック(経済の急激な減速)が引き起こされました。また、世界的に脱プラスチックの動きが高まっています。
◇新型コロナの影響でウッドショックが起きた
2021年から建設業界を揺るがしているのが「ウッドショック」です。北米材の需要急増に端を発した輸入木材の価格高騰は、コロナ禍の影響から未だ収束の兆しを見せず、さらにロシアのウクライナ侵攻により木材輸入がストップし、価格高騰に拍車をかけています。
これにより建材や設備メーカーも値上げを余儀なくされ、住宅価格にも影響が及んでいます。農林水産省の統計調査によると、木材価格は2021年の春から夏にかけて急激に上昇しました。
特に輸入材は2倍近くまで値上がりし、例えば2021年3月には6.67万円だったスギ乾燥材価格が、同年8月には13.06万円まで急騰。この上昇傾向は2022年2月まで続き、7カ月連続で13万円を上回る状況が続いています。
◇世界的に脱プラスチックが注目されている
世界的な脱プラスチックの動きは、海洋環境におけるプラスチックごみ問題に対する懸念から生まれました。海中の有害な化学物質を吸着しやすい性質を持つマイクロプラスチックは、魚介類などに取り込まれ、最終的には人間にも影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクを踏まえて、プラスチックの使用量を減らす取り組みが広がっています。
具体的な取り組みとしては、使い捨てのプラスチック製品を避けることや、代替となるエコバッグや紙ストローの利用を促進する動きがあります。さらに、一部の国や地域では、レジ袋の有料化やプラスチック製品の規制が行われています。
端材の廃棄量が課題?
画像出典先:PR TIMES STORY
木材加工や製造業などの産業では、製品を作る過程で端材や切れ端といった副産物が発生します。これらの端材は、製品としての価値が低いため、廃棄されることが一般的です。端材の廃棄は、資源の無駄遣いや環境への負荷増加といった問題を引き起こすことから、課題とされています。
◇端材の廃棄量
建材や家具の製造過程で生じる木の端材は、それぞれ形や歪みが異なり、新しい商品に加工するのが非常に難しく、手間がかかります。このため、山から伐採された原木の約15%~20%が産業廃棄物として処理されるのが一般的です。
製材工場や素材工房で出た端材は、焼却炉で燃やすか、産業廃棄物として処分するか、あるいは小売店の「端材コーナー」でわずかに販売されます。建築現場の消耗品や加工場の治具としては一部活用されることもありましたが、木の端材を処分するのにコストや手間がかかることから、ほとんどが商品化されることはありませんでした。
◇端材の廃棄コスト
コンテナに詰められた端材は単なる廃棄物として処分されており、その量は膨大です。廃棄するだけでも莫大なコストがかかるため、材木業界にとって長年の悩みでした。時に屋久杉やウォールナット、チーク、花梨など、数百万円もする高級銘木の端材も含まれます。
これらの端材は小売店で販売することはできますが、特別な付加価値はなく、端材としての価値しかありません。
業務用3Dプリンターの木材フィラメントが注目されている
木材フィラメントは、天然の木材を粉砕し、プラスチックと混合して作られる3Dプリンター用のフィラメントです。この木材フィラメントは、一般的なプラスチックフィラメントと比較して、環境にやさしい素材として注目されています。
◇木材フィラメントとは?
木材フィラメントは、3Dプリンターで使われるフィラメントの一種で、本物の木材粉末をPLA樹脂と混合して作られます。このフィラメントは、木の質感を再現できるため、アートや建築モデルなどの造形に適しています。また、端材などの木材を有効活用する手段としても注目されています。
一般的なプラスチックフィラメントと比べると、木材フィラメントは環境にやさしい素材です。木材は再生可能な資源であるため、石油由来のプラスチックと比べて環境負荷が低いとされています。
研磨などの仕上げを施せば、美しい仕上がりを得ることができますが、一方で木材フィラメントには異なる素材が配合されているため、ノズル詰まりなどの問題が起こる可能性があります。
◇木材フィラメントの強み
木材フィラメントの強みは4つです。まず木材フィラメントは、一般的に30%から40%の木材が配合されており、残りの60%から70%はPLA樹脂で構成されています(メーカーやフィラメントの種類によって異なります)。
このため、最大の特長は「木目調」の造形が可能であることです。また、本物の木材が配合されているため、木材フィラメントを使用するとほのかに木の香りを感じることができます。造形後には、サンディングで研磨し、塗装などを施すことで、美しい質感を表現することが可能です。
さらに、PolyMakerのPolyWoodなど、木材を含まない木材フィラメントは、100%PLA樹脂でできています。そのため、PLAフィラメントと同じ設定でプリントでき、ノズル詰まりを防ぐ効果があるのも木材フィラメントの強みです。
木材フィラメントを活用した事例を紹介
業務用3Dプリンターで注目される木材フィラメントの特徴や強みを紹介しました。この章では実際に木材フィラメントを活用した事例を見てみましょう。
◇木材活用率100%を目標に始まった開発
世界的なウッドショックによる木材の供給不足と価格高騰を受け、木材資源の貴重さと有効活用の重要性が再認識されました。この背景の中、福岡県福岡市に拠点を置く家具メーカーの株式会社アダルと、福岡県大川市に本社を構える株式会社井上企画は、木材資源の活用を推進する共通の志を持ち合わせていました。
両社は共同プロジェクトを始動し、木材の有効活用を目指す新しい技術に取り組むこととなりました。このプロジェクトは、アダル創業70周年を記念するにふさわしい対象として、かつての名作椅子「リンクラウンジ」を復刻することに決定しました。アダルは、このプロジェクトを通じて木材活用率100%を目指し、サステナブルな次世代モノ作りに挑戦する決意を示しました。
◇広葉樹の木材フィラメント
広葉樹の廃材を利用したこの新素材を使い、アダル社はバブル期に代表する椅子「リンクラウンジ」を「LINK LOUNGE2.0」として復刻しました。
従来の製造方法では、大型の成型合板を使用したシェルを製作するには、大規模な金型投資や高周波プレスが必要であり、大量生産が前提でした。しかし、ペレット溶解積層方式3Dプリンターを使用することで、約3時間でシェル部分を3Dプリントすることが可能になりました。
座面の造形素材として使用されたペレットは、井上企画社が開発した技術で粉砕された廃材を樹脂と混ぜてペレット化したものです。この技術と3Dプリンターを活用することで、「LINK LOUNGE2.0」は大型の金型や高周波プレスを必要とせず、木材の廃材と3Dデータさえあれば、短時間で1台からの生産が可能になりました。
環境問題は、地球規模での変化や影響が人類や生態系に深刻な影響を与えています。新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウンや経済活動の停滞はウッドショックを引き起こし、世界的な脱プラスチックの動きも高まっています。
木材加工や製造業の端材の廃棄も環境問題として課題視されており、木材フィラメントはこのような端材を有効活用する手段として注目されています。業務用3Dプリンターで使用される木材フィラメントは、木の質感を再現できるため、造形に適しています。
また、木材は再生可能な資源であるため、環境への負荷が低いとされています。木材フィラメントを活用した事例としては、広葉樹の廃材を利用して椅子を復刻するプロジェクトがあり、短時間での生産が可能になり、木材資源の有効活用が実現されています。