業務用3Dプリンターで注目の新素材を紹介
2024/05/31
業務用3Dプリンター市場では、新素材の登場が注目されています。これらの素材は、従来のものと比べて強度や軽量性、耐久性、さらには特殊な機能性に優れています。例えば、カーボンファイバーやセラミックス、メタマテリアルなどが挙げられます。これらの素材は、自動車や航空宇宙、医療などの産業で幅広く活用されており、特にメタマテリアルはその特殊な構造から、音響遮断や強度向上などの分野で注目を集めています。
業務用3Dプリンターへのニーズが変化している
業務用3Dプリンターの市場は成長しており、素材への要求も変化しています。特にコスト削減と環境対応が重視されており、安価な素材や植物由来、リサイクル素材への需要が高まっています。
◇成長を続ける3Dプリンター
近年、業務用3Dプリンター市場は急速に成長しています。2017年の出荷台数は27万台でしたが、2020年には36.4万台に増加しました。新型コロナウイルスの影響で一時的に減少しましたが、近場での部品製造の重要性が高まり、3Dプリンターの需要が増加しました。
樹脂3Dプリンター市場は2013年以降形成され、2020年の市場規模は680億円に達しました。自動車や航空宇宙、医療分野での活用が主です。
金属3Dプリンター市場は2019年に1300億円に達し、欧米が60%以上の市場シェアを持ちます。少量多品種生産や高単価部品の製造に広く利用されています。今後も市場の拡大が期待されています。
◇素材への要求の変化
3Dプリンターの素材に対する要求は、製品の製造が進むにつれて変化しています。製造する製品が多く、大きくなるほど、試作品用途では許容されていた材料価格に対して、コストの低減ニーズが強まります。これにより、3Dプリントを使った製造を視野に入れた開発チームが増え、より実際の製品化に向けたコスト意識が重要視されています。
以前は素材の強化として真っ先に炭素繊維が使用されていましたが、現在ではより安価なガラス繊維やタルク(滑石)などが選ばれるようになっています。また、ベース樹脂には汎用樹脂であるポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)が盛んに研究されており、コストと性能のバランスを取る動きがみられます。
さらに、環境対応素材への注目も高まっています。3Dプリントが製造用機械としてだけでなく、環境対応型のものづくりを行うためのツールとして捉えられるようになり、植物由来の素材やリサイクル素材の重要性が再認識されています。
3Dプリンターへの要求と技術課題
画像出典先:MONOist
解像度と精度の向上に関する課題は、ノズルのサイズや動きの正確性、振動や共振による表面のムラや歪みが挙げられます。材料に関する課題では、高強度や耐熱性、透明性を持つ材料の開発と、層の境界での剥がれ対策が必要です。印刷速度の向上には、精密な位置決めと振動制御、適切な冷却と冷却ソリューションの開発が不可欠です。
◇解像度と精度
3Dプリンターの課題の一つは解像度と精度の向上です。具体的には、ノズルのサイズや動きの正確性が求められますが、素材の粒子サイズが小さくなるほど、微小な構造を正確に制御することが難しくなります。
さらに、ノズルが高速で動作する際には、機械的な振動や共振が発生しやすくなります。この振動や共振により、印刷物の表面にムラや歪みが生じ、全体の精度が低下する問題があります。
また、ノズルの動きが非線形になることがあり、これを補正する必要があります。加えて、ノズルの加速度制御も技術的な課題のひとつです。
◇材料
高強度、耐熱性、透明性が求められますが、これらの要求を満たすために技術的な難易度が高くなります。高強度の材料は、層の境界で剥がれやすく、接着強度の向上が必要です。耐熱性を持たせるためには、高温に耐える材料の選定と排熱方法が重要です。透明性を確保するには、層の厚さを均一にし、光学的特性を精密に制御する技術が求められます。
◇印刷速度
3Dプリンターの技術には、印刷速度の向上に関する課題もあります。印刷速度が上がると、特に小さな構造や微細なディテールの印刷において精密な位置決めが求められます。また、高速な動作により機械的な振動や共振が発生しやすくなるため、これを制御する振動制御技術が必要です。
高速で連続的に素材を積み重ねると、ホットエンドやノズルが過熱しやすくなります。これには、適切な冷却材の選定や冷却流体の制御が重要です。また、印刷ヘッド周りの機械部品やモーターも高速で動作するため、これらの部品の冷却も必要です。これには冷却ファンの配置や冷却フィンの効果的なデザインが求められます。
さらに、積み重なった層が急速に冷却されると、応力が生じやすくなり、割れや歪みの原因となります。これを防ぐためには、適切な冷却プロファイルや冷却ソリューションの開発が求められます。
注目されている新たな素材を紹介
業務用3Dプリンターのニーズが、試作品目的から製品製造へと変化する中で、強度や軽量性、仕上がりの滑らかさなどに優れた新たな素材が注目を集めています。その中でもここでは、カーボンファイバー・セラミックス・メタマテリアルの優れた性質についてご紹介します。
◇カーボンファイバー
3Dプリンターの登場により、さまざまな高度な素材を使用した新しい構造物の造形が可能になりました。現在、3Dプリンターで利用される素材のバリエーションは日々増加しており、樹脂や金属、ガラス、木材、さらには幹細胞や食材などが含まれます。中でも特に注目すべき素材がカーボンファイバーです。
カーボンファイバーとは、炭素繊維のことであり、石油やアクリル系の長繊維を炭化(黒鉛化)して作られます。カーボンファイバーは耐熱性、通電性、薬品反応耐性、低熱膨張率、自己潤滑性などに優れており、強度対重量比では樹脂の23倍、アルミニウムをも上回ります。
◇セラミックス
セラミックスは、樹脂や金属に対し、3Dプリント分野では遅れをとってきましたが、その強度や耐摩耗性の高さで注目を集めています。硬さは超硬金属よりも高く、ダイヤモンドに迫るともいわれています。さらに、セラミックスは表面を緻密に仕上げることが可能であり、芸術的な陶器作品のように、質感の高い製品を作ることができます。
◇メタマテリアル
メタマテリアルとは、電磁波の波長よりも細かな構造体を利用して、物質の電磁気学的な特性を人工的に操作した疑似物質です。これにより、メタマテリアルは複雑な機械のように機能し、まさに近未来の素材といえます。
例えば、ローレンスリバモア国立研究所では、特定の温度範囲に対応するように調整可能で、加熱によって収縮する材料を開発しています。このような素材を用いた3Dプリントにより、新たな製品が生み出されています。
一例として、気化冷却レンガが挙げられます。これは、液体が蒸発する際に周囲の熱を奪う「気化冷却」の作用を利用したレンガで、「Cool Brick」と呼ばれています。メタマテリアルを用いることで、3Dプリンティングの可能性がさらに広がり、革新的な製品の開発が進んでいます。
新素材を使用した事例!メタマテリアルへの期待が高まる
先ほどご紹介したカーボンファイバーや、メタマテリアルを活用した事例をご紹介します。これらの素材は、従来の素材では実現困難だった特性を持っており、様々な分野で革新的な応用が期待されています。
◇カーボンファイバー製!世界に1台のバイク
ユニボディ・カーボンファイバー製バイク「Superstrata」は、シリコンバレーのベンチャー企業AREVO社が自社の3Dプリンターを活用して製作した世界初のオーダーメイドスポーツバイクです。
「Superstrata」は、連続カーボン素材を使用し、3Dプリンターで印刷されたユニフレーム構造を持つオーダーメイドカスタム自転車です。従来のカーボンファイバー製自転車のフレームは、複数のパーツを接着・溶接し、ボルトで固定して作られていましたが、AREVOの技術により、継ぎ目や連結がない一体型のフレームが実現しました。
このバイクは次世代の熱可塑性材料を使用しているため、カーボンバイク特有の軽さを保ちながら、高い耐衝撃性も備えています。また、シートポストにもカーボンファイバーを採用しており、フレーム形状とシートポストの素材による優れた振動吸収性を発揮します。
◇メタマテリアルに期待されていること
メタマテリアルは、その特殊な微細構造により、教育機関を中心とした研究分野で注目されています。2019年にはメタマテリアルやメカニカル・メタマテリアルの研究が活発に行われ、3Dプリンターの登場により複雑な内部構造を持つ造形物が多く作成されました。
例えば、米ライス大学の研究チームは、多孔構造で軽量かつダイヤモンドと同等の強度を持つ樹脂製の構造体「tubulanes」を製作しました。この構造体は秒速5.8kmの弾丸を受け止めることができる強度を持っています。
また、ボストン大学は音響メタマテリアルを開発し、音を遮断するリング状の構造を3Dプリント技術で作成しました。これはドローンの騒音対策などに応用されています。日産自動車も次世代の遮音材として音響メタマテリアルの開発を進めています。
メタマテリアルは、構造そのものが特定の機能を発揮するため、従来の材料では実現できなかった新しい機能を持つ製品の開発が期待されています。
業務用3Dプリンター市場は成長し、素材要求も変化しています。コスト削減と環境対応が重視され、安価な素材や植物由来、リサイクル素材への需要が高まっています。業界は解像度や精度の向上、新素材の活用でさらなる発展が期待されています。
解像度と精度の向上には、ノズルの正確性や振動制御が課題です。材料には高強度や耐熱性、透明性が求められ、冷却ソリューションの開発も重要です。
カーボンファイバーやセラミックス、メタマテリアルなどの新素材が注目され、高強度や軽量性、特殊な機能を持つ製品が開発されています。メタマテリアルは特に注目されており、音響遮断や強度向上など様々な応用が期待されています。