業務用3Dプリンターでねじ穴を造形できる?
2024/03/27
業務用3Dプリンターの進化により、従来難しいとされていたねじ穴の造形が可能になりました。これにより、部品製造や試作品の設計において、高度なカスタマイズや耐久性の向上が実現されます。しかし、精度や強度に関する課題も存在し、適切な後処理や工夫が求められます。業務用3Dプリンターを活用することで、より高度な製品開発や生産プロセスの改善が期待されます。
3Dプリンターでねじ穴の造形は可能
近年の3Dプリンティング技術の進化により、従来難しいとされていたねじ穴の造形も可能になりました。3Dプリンターによるねじ穴の造形は、ねじ山のカスタム設計による高度な形状要素や耐摩耗性の向上など、多くの利点があります。しかし、組立てと分解の繰り返しには金属ほどの耐久性がないという課題も存在します。
◇ねじ山の造形
3Dプリントされたねじ山やねじ穴には、長所と短所があります。長所としては、プラスとマイナスの形状要素をカスタム設計できることが挙げられます。しかし、組立てと分解を繰り返す場合には金属と同等の耐久性がないという短所があります。
この手法は、大きなサイズのねじにのみ有効であり、ねじのサイズが小さい場合には締結性能を向上させるためにカスタマイズが必要です。例えば、半円のねじプロファイルを使用し、0.1mmのオフセットを与えることで耐摩耗性が向上します。
SLAおよびSLS 3Dプリントは精密かつ滑らかな表面仕上げが可能であり、特にDurableレジンなどの材料では摩耗が少ないと考えられます。パーツのプリントの準備段階では、ねじ山面へのサポート材を最小限に抑えることが重要です。
◇タッピングネジならねじ穴が不要
タッピングネジは、自己加工ねじを使用するため、事前にねじ穴を開ける必要がありません。これは、受け側の材料に直接ねじを加工することができるためです。一方で、通常のネジとナットを使用する場合は、事前にねじ穴を開けておく必要があります。
この違いから、タッピングネジを使用するときは、素材に直接ねじ加工が可能であるため、ねじ穴を事前に加工する必要がありません。
課題は精度と強度
画像出典先:株式会社 YOKOITO
3Dプリント技術における部品強度と造形の難しさに関する課題に対処するため、適切な後処理が不可欠です。ネジの脱着による破損リスクや小径ねじ穴の造形難易度は、3Dプリントの実践上の課題です。この文書では、これらの問題に焦点を当て、部品の耐久性を向上させるための解決策を検討します。
◇ネジの脱着で破損する可能性がある
3Dプリントされた部品では、ネジ穴の強度が不十分であり、ネジの取り外しによって部品が破損する可能性があります。この問題に対処する方法として、後処理による強化があります。具体的には、インサートなどの処理を一部施すことで、ネジの着脱に耐える強度を持たせることができます。
これにより、ネジ穴周辺の強度が向上し、耐久性が向上します。インサート加工時には、ネジ穴周辺の厚みを調整して破損を防ぐことが重要です。この方法により、ネジの着脱による破損リスクを低減し、部品の耐久性を向上させることができます。そのため、3Dプリントだけでなく後処理も組み合わせることで、部品の強度を確保することができます。
◇小径ねじ穴の造形が難しい
ネジの径が小さい場合、ネジ山自体の厚みが細くなります。これは、ネジの径が小さいということは、ネジ山の間隔が狭くなるためです。ネジの山は、その径に応じて一定の幅を持つ必要があります。ネジ山の幅が不十分だと、十分な強度や安定性を確保することができず、ネジが適切に保持されない可能性があります。
3Dプリンターの造形時には、材料の熱膨張が考慮される必要があります。加熱された材料は膨張し、それが冷却されると収縮します。このプロセスにより、穴や細長い部品の寸法が変化します。一般的に、穴を3Dプリンターで造形すると、その直径は0.1~0.2ミリほど小さくなります。このため、元の設計よりも小さなネジの穴を正確に造形することが難しくなります。
さらに、3Dプリンターの造形精度は一定の限界があります。特に小さな部品や細かい構造を正確に造形するのは難しい場合があります。加えて、FDM(熱溶解積層造形法)造形の場合、積層ピッチが0.2ミリ程度になるため、細かい部品や穴を正確に再現することが難しくなります。
3Dプリンターで高精度のねじ穴を実現するには
3Dプリントによる部品製造における組み込み方法と加工補正手法について解説します。拡張方式や熱圧入方式など、異なるインサート取り付け手法や造形後の切削加工による精度補正を紹介します。
◇インサートやナットを埋め込む
拡張方式インサートは、まずパーツの設計段階でインサートの仕様に基づき、適切なボスの深さと穴径を設計します。次に、SLAまたはSLS方式の3Dプリンタでパーツをプリントし、後処理を行います。
最後に、インサートを単純に圧入して取り付けます。この方法は、3Dプリント部品に確実に結合し、金属ねじの堅牢性と耐摩耗性を提供しますが、高温でインサートが緩む可能性があるという短所があります。
熱圧入方式インサートでは、はんだごてや接着剤を使用してインサートを取り付けます。熱可塑性樹脂 (SLS) 部品でははんだごてと冷却時間が必要であり、熱硬化性 (SLA) 部品では接着剤と硬化時間が必要です。この方法は、3Dプリント部品に対する優れた結合力を提供しますが、追加の手順と工具が必要であるという点で煩わしさがあります。
ナットを設計に取り込む方法では、ポケットやボス穴を先に設計しておき、ナットを取り付けます。ナットをより確実に固定するために、シアノアクリレート (CA) 系の接着剤を使用します。この方法は、3Dプリント部品に対する優れた結合力を提供しますが、ポケットやボス穴へのアクセスが必要であるという短所があります。
◇造形後に切削加工を行う
業務用3Dプリンターの精度に関する制約を補うため造形後に切削加工を行います。業務用3Dプリンターは一般的に0.2mm程度の寸法の誤差があり、形状によってはそれ以上の誤差が生じることもあります。また、小径のネジや高精度の穴を造形するのが難しい場合もあります。これらの誤差や制約により、必要な精度が得られない場合があります。
そのため、造形後に切削加工を行うことで、追加の精度や形状の補正を行うことができます。切削加工によって、H7(±0.01㎜)公差の穴あけや高精度のネジ穴を実現することが可能です。
試作品のねじ設計の検証に効果的
3Dプリンターの利用は、ねじ部分の設計における不具合を発見しやすくしました。スパナやドライバーの取り扱いに難があるボルトやナット、そして組み立てが困難な部品など、試作段階での確認が容易です。
◇ねじ部分の設計における不具合を発見しやすい
3Dプリンターを利用することで、ネジ部分の設計に関する問題点を試作段階で確認することが可能です。例えば、スパナが入りにくいボルトナットや、ドライバーが使いにくい小さなネジ、組み立てが難しいフランジ、ねじ頭部の干渉、部品の固定とネジの本数のバランスなどが挙げられます。
かん合には、「ネジ」「タッピング」「ツメ」という3つの組み付け方法があります。ネジによるかん合は、雄ねじと雌ねじを使用して締め付ける手法であり、高い精度が求められます。タッピングによるかん合は、バカ穴にタッピングをねじ込む手法であります。ツメによるかん合は、スナップフィットのようなツメによる固定手法です。
これらの組み付けパターンを適切に選択し、3Dプリンターを使用して設計されたネジ部分を試作することで、問題点を発見しやすくなります。
◇高硬度かつ高精細な造形が可能な方式は?
ネジ、ボルト、ナットなどの部品を作る際には、光造形3Dプリンターが適しています。このプリンターは、タフな材料やガラス繊維を配合した高硬度の素材を使用して、高強度で滑らかで精密な造形を実現します。推奨される材料は高強度系のものやABSライク、PPライク、PEライクなどで、積層跡が目立ちにくい特徴があります。さらに光造形3Dプリンターを用いることで、高硬度かつ高精度なねじやナットの造形が可能になります。
3Dプリンティング技術の進化により、3Dプリンターでねじ穴の造形が可能となり、それには多くの利点があります。ねじ山のカスタム設計により高度な形状要素や耐摩耗性の向上が実現し、SLAやSLS方式のプリンターでは精密で滑らかな表面仕上げが可能です。
さらに、タッピングネジを使用することでねじ穴を事前に加工する必要がなくなります。ただし、3Dプリントされた部品の耐久性や精度には課題があります。そのため、適切な後処理や部品の設計に工夫が必要です。
インサートやナットの埋め込み、造形後の切削加工などを行うことで、部品の強度や精度を向上させることが可能です。また、光造形3Dプリンターを使用することで高硬度かつ高精細なねじやナットの造形が可能となります。これらの技術を活用することで、試作品のねじ設計の検証を効果的に行うことができます。